アメリカで活躍する5人のミクソロジストを招聘したのは、合同焼酎プロジェクトを立ち上げた鹿児島・宮崎・大分・熊本の4県。ツアー終了後の11月に、東京で日本のバーテンダーを対象とした報告会を開催しました。「SHOCHU EXPERIENCE」と題して、現地を視察した5人が海外市場における本格焼酎の可能性と魅力について語り合い、その後それぞれ考案したクリエイティブなSHOCHUカクテルを披露。日本のバーテンダーから質問が飛び交う熱いセッションとなりました。
アメリカを代表する5人のトップバーテンダーたち
会場は、東京虎ノ門のGold Bar at EDITION。招聘された5人のミクソロジストが登壇。
いずれも、アメリカを代表するトップバーテンダーたちです。
Don Leeさん USA New York/DC
元PDTヘッドバーテンダー/バーコンサルタント @donbert
ニューヨークバー業界の第一人者として知られるドン・リーさん。ウエストポイント士官学校からコロンビア大を卒業し、バーテンダーに。PDTヘッドバーテンダーを経て、ミルク&バーのビバレージダイレクターとして活躍。EXのオーナーとしてカクテルバーをオープンし一斉を風靡(パンデミックスのため閉店)。現在はバーテンダーを育成する教育者として様々なプロジェクトに携わっています。2020年テールズオブカクテルベストバーテンダーの受賞者。
Chris Bostickさん USA Austin
Half Stepオーナーバーテンダー @halfstepbar
カクテル業界を変えたと言われているクリスさんは、フレーバーとバランスの技に定評のあるバーテンダー。ロサンジェルスのバニッシュでカクテルのプロセスと混合率を徹底的に研究し、故郷オースチンに戻り、ハーフステップをオープン。オーナー兼音楽家としても活躍。氷のphレベルまでこだわる老舗店として知られています。
Julia Momoseさん USA Chicago
Bar Kumikoオーナーバーテンダー @barkumiko
モモセさんは日本で生まれ育ち、米国アイビーリーグであるコーネル大に進学後、バー業界に飛び込んだという経歴の持ち主。シカゴのエイバリーを得て、バークミコをオープン。ワールドベスト100、2022年テールズオブカクテルベストUSレストランバーノミネート、ベストニューカクテルブックノミネート「The Way of the Cocktail」を出版。ジェームズビアードアワード受賞。
Nikola Nikoleticさん USA New York
Patent Pendingヘッドバーテンダー @patentpendingnyc
サイベリア出身でアーティストでもあるニコラさんは、パテントペンディングのヘッドバーテンダー。最も予約の取れないスピークイージーのバーとして業界をリードする存在。2018年バーキングアイロンアップルジャック優勝者、2019年米国最終者アー ト・オブ・イタリックスタンテオ・メキシカン・スタンドフ優勝者。
Takuma Watanabeさん USA New York
Martiny’s共同オーナー兼ビバレッジディレクター @martinysnyc
渡邊琢磨氏は、後関信吾氏を頼ってニューヨークに渡米し、エンジェルシェアーヘッドバーテンダーに。独立後、ニューヨークで話題のMartiny’sをオープン。Casa Nobleワールドトップ10。
東京を中心に、大阪、北九州、台湾から参加したバーテンダーで満席の会場。真剣な表情で話を聞く姿をうけ、5人の語りも熱を帯びているようでした。
日本人バーテンダーたちの熱い視線が注がれる熱狂のカウンター。トークセッション後は、各地を巡ってインスピレーションを得た焼酎カクテルを披露し、振る舞われました。
5人がカクテルに使った本格焼酎。右から大分の麦焼酎“iichiko彩天”、熊本の米焼酎“白岳吟醸しろ”、鹿児島の芋焼酎“薩摩白波蔵出し原酒”、奄美の黒糖焼酎“じょうご”、宮崎の芋焼酎“平八郎”。
クリス氏が披露したのは、奄美でうけた南国のイメージから和のピニャコラーダ “Amami Island Colada”を披露。
バーテンダーたちが驚いたのは、焼酎の原料である水の美しさ
鹿児島、宮崎、大分、熊本を巡りながら酒蔵と交流し、土地の食や文化に触れた5人のバーテンダーたち。アメリカで本格焼酎が広まる可能性について、日本のバーテンダーに向けて熱く語ってくれました。
中でも印象に残ったというのが、各地の〝美しい水〟。本格焼酎と水の関係について、招聘バーテンダーのリーダーであるドン・リー氏にお聞きしました。
「ブランデーをフランスではEau de Vieと呼びます。英訳するとwater of life(生命の水)。ウォッカの語源はロシア語で蒸留した酒、ズィズネーニャ・ワダ(Zhiznennia Voda)。やはり生命の水という意味です。ウィスキーは、ゲール語でウシュクベーハー(Uisge-beatha)と呼び、焼いた水という意味です。世界の蒸留酒の名前の由来は水から始まっています。それくらい、蒸留酒造りにおいて水はとても重要なんです。
日本はどこへ行っても水がきれいで美しい。どの酒蔵を訪ねても美しい水があることは驚きそのものでした。水そのものだけでなく、井戸があり、その外も中も清潔で美しい。そのありがたみに日本人は気がついていないかもしれません。世界の人にとって、水がきれいなことは当たり前なことではなく、特別なことなんです。
蒸留酒といっても、一般的な焼酎はアルコール度数25%。75%が水です。原酒さえも造る過程で水をたくさん使っています。焼酎が〝きれいで美しい水〟で造られていることを、世界の人にしっかりと伝えていくべきです」。
ニコラさんもまた、九州各地の豊かな水の印象を語ってくれました。
「各地を巡って、一番強く印象に残っているのが水です。酒蔵では焼酎を味わうと同時に、その土地の水も味わいました。どの水もミネラルが豊富で驚きましたし、それぞれの地域の水に違うものを感じて、さらに驚きました。
忘れがちなのですが、どんなお酒であっても水が原料なんです。とりわけ焼酎は麹で発酵させるから、水がなにより重要なんだと理解しました。
焼酎を初めて飲んだときに、ファットウオッシュ(お酒に脂の香味を移すミクソロジーの技法の一つ)みたいな、油がまとわりついたようなリッチなテクスチャーを感じたんです。各地で水を味わい、焼酎をテイスティングしたことで、焼酎は水がテクスチャーをつくっているんだと実感しました。私にとって、焼酎はフレーバーじゃなくて、テクスチャー。リッチでパワフルで、ファンタスティックなスピリッツです」。
「バーテンダーが正確な知識とそのおいしさを伝えていかなければならない」と、本格焼酎の伝道師としての使命感を語ってくれた5人のバーデンダー。日本のバーテンダーのみなさんにあらためて本格焼酎の価値を知っていただく、よい機会となりました。
文・神吉佳奈子
日本酒造組合中央会
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