日本酒造組合中央会の一階にある日本の酒情報館では、本格焼酎と泡盛の需要を広げるためにさまざまなイベントを企画しています。7月2日に開催したバーテンダー向けのセミナーもその一つ。米国スピリッツ協会が協力し取り組んだセミナーには、国内外で活躍するトップバーテンダー13人が参加。熱気あふれるセミナーとワークショップをレポートします。
トップバーテンダーたちが学ぶ本格焼酎と泡盛
イギリスのIWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)や、アメリカのSFWSC(サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション)、2019年には日本でもTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション)に焼酎部門が開設。各地のコンペティションで焼酎部門が設けられるようになり、世界が注目しはじめている本格焼酎と泡盛。日本人のバーテンダーにも関心をもってもらいたいと日本酒造組合中央会が企画し、米国スピリッツ協会が協力するという初めての試みで開催されました。
「ウィスキーやジンなどに比べると、20~25度と度数の低い焼酎は他のスピリッツと合わせることでカクテルとして成立するという話をバーテンダーさんから聞いていました。合わせる対象として甘みが特徴のバーボンウイスキーは相性がよいのではと考え、米国スピリッツ協会にご相談を持ちかけました」と、日本酒造組合中央会のアドバイザー・児島麻理子さん。
「スピリッツとスピリッツを合わせる〝ダブルスピリッツ〟という考え方は、カクテルの世界ではよくある技法。違う甘みや苦味が加わると、ときに想像を超える味わいを生み出してくれます。特に度数の低いお酒はダブルスピリッツにするときに使いやすいので、焼酎は向いているんです」と続けます。
米国スピリッツ協会の担当者も、「今回のコラボイベントは、米国スピリッツ協会にとっても初めての試みです。普通は他の国と組まないものですから、この発想は実験的でおもしろいと思いました。バーテンダーのみなさんに、国の垣根を超えて、スピリッツの新しい可能性を見つけていただければ」と説明します。
まずは、産地と特長を体系的に理解する
セミナーではまず最初に、日本の酒情報館の館長、今田周三さんが、本格焼酎と泡盛の基礎知識について講義。歴史や各産地の特長の解説に続き、原材料の種類、蒸留方法、貯蔵方法によって、それぞれの風味が違うことを説明。参加者は日本の蒸留酒についての知見を深めます。
「本格焼酎は、原材料の風味を楽しむもの。基本的には単式蒸留器で一回だけ蒸留するというのが特長です。1回の蒸留ですむのは、蒸留する前のもろみのアルコール度数がしっかりあるから。麹を使い、並行複発酵という日本酒の技術で一次もろみを作るため、40度を超えるような原酒が一回の蒸留でとれるのです。そのため原材料の風味がそのまま残るのが、最大の特長です」。
最後に今田さんは「バーテンダーの方たちに集まっていただき焼酎の話をするという、時代が変わったことを実感しています」と語ります。「居酒屋でわいわい楽しく飲むものだった焼酎ですが。今、海外の方たちに関心を持っていただくようになって、焼酎の位置付けというのが変わってきたように思います。一番大きいのは、スピリッツとしての市場戦略を立てようという動きです。カクテルのベースになるような原酒が商品化されたり、新しい市場をつくっていこうという動きが出ています。今までの市場も大切ではありますが、バーテンダーのみなさんのお力で、両方の市場をつくっていければと思います」と締めくくりました。
特徴的なフレーバーについて科学的知見を深める
続いて、日本酒造組合中央会の理事、宇都宮仁さんが、焼酎の特徴的なフレーバー成分について講義。スコッチウィスキーのフレーバーホイールと焼酎のフレーバーホイールを比較しながら、科学的知見から考えるペアリングやカクテルのアプローチを解説しました。
たとえば、芋焼酎のリナロール。「芋焼酎の花様の香りの代表的なものがリナロール。ラベンダーやすずらん、エルダーフラワーやライチなどいろいろな表現があります。これはさつまいもの中に存在するモノテルペン配糖体から、麹の酵素によって分解して切り離されて、蒸留時の酸と熱で変換されてできるものです。じつはマスカットの香りと同じ成分で。ぶどうの中にも同じものが存在します。」
酢酸イソアミル、リナロール、β-イオノン、バニリン、ラクトン、ピラジン、ジアセチル‥‥‥‥、普段聞き慣れない香り成分ですが、宇都宮さんの講義に参加者は興味深々。このあと続くワークショップでは、あちこちから「あ、リナロールだ」、「これがラクトン?」という声が飛び交い、大盛況でした。
バーテンダーのみなさんから、「減圧焼酎と常圧焼酎のこと、いまひとつわかっていなかったんだけど、やっと理解できました」、「日本の蒸留酒を体系立てて学べたので、これからは俯瞰で考えたい」、「フレーバーの科学的な知見を知ることができて、カクテルのアイデアになった」などのコメントが寄せられました。さあ、次は実践です。ワークショップのレポートは次回お届けします。
取材・神吉佳奈子
日本酒造組合中央会
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