クラフト蒸留所ブームによって、土地の個性を生かしたジンが日本各地で誕生しています。2020年、東京のど真ん中、虎ノ門ヒルズに開業した「虎ノ門蒸留所」もその一つ。そこで蒸留家の一場鉄平さんが選んだジンのベーススピリッツは、あまり知られていない東京の〝島焼酎〟でした。3月には一場さんの地元、深川に小料理と蒸留酒の店「かまびす」をオープン。そんな一場さんに島焼酎の魅力をお聞きしました。
虎ノ門蒸留所のはじまりは、東京の島焼酎
門前仲町から歩いて6分。カウンター6席の小さなお店「かまびす」は、新進気鋭の蒸留家として知られる一場鉄平さんが「蒸留酒をもっと日常に」という思いで始めた酒場です。港区の虎ノ門蒸留所でジンをつくりながら、週に2~3回、店に立っています。
カウンターには虎ノ門蒸留所のジンのほか、一場さんが出会った造り手の島焼酎や、鹿児島や宮崎の焼酎もずらり。「ジンの店がやりたかったわけじゃないんです。おいしいお酒とおいしい料理を日常的に楽しめる酒場を地元につくりたかっただけ。僕がジンを造っているので、あえて蒸留酒をフユーチャーして、仕事でつながった蔵元や造り手を紹介していく場にもしていきたいなと思って始めました」
一場さんはもともと、飲食店を手がける空間デザイナー。港区のオフィス街にできた虎ノ門ヒルズでレストランを併設した都市型蒸留所の開業にとりかかっているうちに、企画担当者がいつのまにか蒸留責任者に。岐阜県郡上八幡にある「辰巳蒸留所」でジン造りの修行をしているうちに、すっかりジンの魅力にはまったと言います。
そもそもジンは、ベースとなるスピリッツにジュニパーベリーなどのボタニカルを加え、蒸留したスピリッツのこと。師匠である蒸留家の辰巳祥平さんは、九州各地の焼酎蔵で修業し、ベーススピリッツに焼酎を使っています。そんな辰巳さんから、「東京にもおいしい焼酎があるよ」と教えてもらったのがきっかけで、一場さんは東京の島焼酎と出会います。
ルーツは江戸時代、東京生まれの島焼酎
東京の島酒とも呼ばれる島焼酎は、東京から約100~2000km離れた伊豆諸島や小笠原諸島にある10軒の酒蔵で造られている焼酎のこと。そのルーツは古く、江戸時代。琉球との密貿易によって八丈島へ流刑となった鹿児島の商人・丹宗庄右エ門が、九州の焼酎造りを島民に伝授。八丈島から島々へと伝わったと言われています。島では米が貴重な作物だったことから、麦麹で仕込む芋焼酎が主流。今でも島焼酎の特長となっています。
「生まれてからずっと東京に住んでいますが、東京で焼酎が造られているなんて、それまで全く知りませんでした。辰巳さんに聞いて八丈島の情け嶋を飲んでみたんですが、僕が抱いていた焼酎のイメージよりずっとおいしくて。すっきりと飲みやすい。東京の島焼酎でやってみたいと、すぐに八丈島を訪ねました」。伊豆諸島をめぐり、八丈島「情け嶋(なさけじま)」の小宮山善友さん、新島「嶋自慢」の宮原淳さんなど、東京島焼酎の造り手たちとの交流が始まります。
2020年、「TOKYO LOCAL SPIRITS」をコンセプトととした蒸溜所が虎ノ門に誕生。八丈興発の減圧麦焼酎「情け嶋」、新島蒸留所の減圧麦焼酎「嶋自慢 羽伏浦(はぶしうら)」をベースにしたクラフトジン「COMMON」が生まれました。
伊豆大島で、麹スピリッツのユニークさを体感
虎ノ門蒸留所でジンを造りながら、一場さんは本格焼酎のことをもっと深く知りたいと思うようになります。そんなとき、伊豆大島にある谷口酒造の谷口英久さんからお誘いがあり、初めて焼酎の仕込みを手伝うことに。2021年11月、伊豆大島に2週間住み込み、麦麹を仕込んだり、芋を蒸したりと、醸造の仕事を体験。続いて12月にも2週間、本格焼酎の蒸留や瓶詰め作業をするため、再び島へ。
「焼酎造りの仕組みは知っていたのですが、麹造りを体験できたのがよかった。なるほど、こう造っているからこういう味になるのかと、やっと腑に落ちました。麦を蒸すこと一つをとっても、麹を造ること一つにしても、蒸留するまでにこんなにも多くの仕事があるんだと驚きましたね」
本格焼酎は麦や米を蒸して麹を造るところから始まります。麹に水と酵母を加えて発酵させたもろみを造り、さらに蒸した麦や芋などの原材料を仕込み、蒸留してようやく完成。日本酒や味噌と同じように、発酵と醸造の工程があり、麹を使った複雑な味わいをもつのが日本の本格焼酎なのです。
蒸留酒を楽しく、おいしく、もっと日常に!
「島焼酎は造り手がひとりという酒蔵が多く、長年造り続けている中で培った独自のやり方が島ごとにそれぞれあって、それが酒の個性になっています。おおらかで、ゆったりしているような飲み心地が島焼酎のよさ。ロックでそのままでも軽やかで、ほんとおいしいんです」
そう言っておすすめいただいたのは、谷口さんの造る麦焼酎「「御神火 凪海(ごじんか なぎうみ) 」。まろやかな甘さがありながら、コクのある芯のある味わいで、スルスルした飲み心地です。そしてロックに添えられているチェイサーは、実験室のフラスコ! 蒸留酒を味わいながら、好みで水を足していくのが、かまびすスタイル。蒸留酒を楽しく、おいしく、もっと日常に! そんなかまびすの料理を次でご紹介します。
かまびす
東京都江東区深川1-8-12
パーソナルハイツ門前仲町
17:00~22:00
定休日: 月曜、隔週日曜
予約はInstagramのDMへ
●焼酎600円~、ジン900円~、焼酎の酵素サワー割り1300円ほか。
https://www.instagram.com/kamabisusii/
撮影・名取和久 取材・神吉佳奈子
日本酒造組合中央会
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