FOLKLORE(フォークロア)
意欲的な造り手たちが新たな製法や個性あるフレーバーを生み出し、本格焼酎と泡盛に注目が集まる中、最高の一杯に出会える店が続々オープン。バーや角打ち、立ち飲み、居酒屋と、さまざまなジャンルで本格焼酎に魅せられた店主たちが新たな伝え手として活躍しています。東京の最先端のシーンをつくる最高の一杯に込められた思いをお聞きしました。
現代の茶室のような高架下の異空間で焼酎を
茶室のにじり口を思わせる小さな扉をくぐると、そこはJR高架下とは思えない風情ある佇まい。中には300年以上のものもあるという古木が美しく映える数寄屋建築の空間に、本格焼酎や泡盛をはじめとする國酒がずらりと並んでいます。
ミクソロジスト*の第一人者として知られる南雲主于三(なぐも・しゅうぞう)さんが、今年の5月、日比谷okurojiの中に6店舗目のバーとして手がけたFOLKLORE(フォークロア)。日本酒、焼酎、泡盛、国産スピリッツを主体として日本の文化にフォーカスし、店名の〝民間伝承〟をコンセプトとしたバーです。「日本のカクテルとは日本の酒とテロワールという、〝文化と土壌〟をカクテルに反映したものではないかと私たちは考えました」と語る南雲さんが、新しい日本のカクテル文化の確立を目指す、挑戦の店でもあります。
*ミクソロジストとは、Mix(混ぜる)ologist(専門家)の造語で、既成概念を飛び越えて創造するカクテルをつくりだすバーテンダーのこと。
國酒への取り組みは、土地との出会い、人との出会いから
國酒について南雲さんが本格的に取り組んだのは2018年。酒販店「いまでや」から、五大焼酎の産地のカクテルを考案できないかと依頼があり、初めて九州各地の産地を巡ります。ちょうどそのタイミングで、日本の文化を発信するエンターテイメントな場をつくりたいというオファーが飛び込み、国産クラフトスピリッツ専門のミクソロジーバーを銀座にオープンします。
続いて2019年には、焼酎のイベントCSC2019(Craft Japanese Spirits&Cocktail Convent)を「いまでや」と共同開催することに。そのときに参加した小正醸造、小牧蒸留所、西酒造、佐多宗二商店、中村酒造、黒木本店、宮里酒造所、藤居醸造、豊永酒造、長雲酒造の10蔵と交流、さらに料理人やソムリエ、バリスタといった異なるジャンルのプロフェッショナルとセッションし、本格焼酎と泡盛の可能性を探求していきます。南雲さんはこのイベントで「焼酎は世界に誇れる蒸留酒」だと確信したと言います。
「土地に出会い、人に出会い、ご縁がつながったときに僕のカクテルは生まれます。だから、素材探しで焼酎にたどりついたわけじゃないんです。焼酎や泡盛がその土地の風土や食文化に根差していることを知れば知るほど、どんどんと魅力的に思えてきて。そのうち僕たちがやらねばという気持ちが強くなって(笑)、使命感のようなものが芽生えてきました」
お酒や産地に興味を惹きつけるような、日本のカクテルをつくる
南雲さんが本格焼酎と泡盛に出会ってから4年。今では、世界の蒸留酒から見たそれぞれの魅力を掘り下げ、バーテンダーの視点と言葉でわかりやすく伝える伝道師として注目を集めています。産地を巡り、造り手と交流し、知識と経験を深めていきついた答えが「日本の酒」と「文化」で、「日本独自のカクテル」を作るためのバー、FOLKLORE。南雲さんは、さらにここから〝酒蔵ツーリズム〟につなげたいという思いを抱いています。
「僕たちが酒蔵のみなさんにどう還元できるかを考えていくことも、國酒バーを開業した理由のひとつ。洋酒を扱っていたときには、こんなことは考えもしなかった。日本のお酒を扱うようになってから、抱くようになった思いです。
一杯のカクテルに感動していただけたら、そのお酒を知りたい、その土地への興味につながっていきますから。土地を訪ねておいしいものを食べると、いいところだなあってなりますよね。そうなれば地域が潤い、文化も潤う。それで酒蔵が元気になればいい。いいお酒ができることが、いいカクテルができることにつながるんです」
次回は、そんな南雲さんの思いがあふれる最先端の焼酎カクテルご紹介します!
撮影・名取和久 取材・神吉佳奈子